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機関誌「実験社会心理学研究」
第36巻 第2号
(1996年12月発行)
目次(INDEX)
一般論文
- 論 文
- ●渡部 幹・寺井 滋・林 直保子・山岸俊男:
互酬性の期待にもとづく1回限りの囚人のジレンマにおける協力行動 - ●永田素彦・矢守克也:災害イメージの間主観的基盤
―昭和57年長崎大水害についての会話分析― - ●山口 創・鈴木晶夫:座席配置が気分に及ぼす効果に関する実験的研究
- ●大野俊和:被害者への否定的評価に関する実験的研究
―「いじめ」の被害者を中心として― - ●岡田圭二:自己参照方向づけ課題の認知処理の特性
- ●田村美恵:情報処理の視点が illusory correlation (誤った関連づけ) 現象に及ぼす効果
- ●伊東秀章:援助行動の質―援助の質の高さと関連する性格特性とジェンダー―
- ●山口 浩:日常生活における怒りと攻撃性の表出
一般論文 / 論文 (要約)
互酬性の期待にもとづく1回限りの囚人のジレンマにおける協力行動
渡部 幹(カリフォルニア大学)・寺井 滋・林 直保子(日本学術振興会特別研究員 オレゴン大学)・山岸俊男(北海道大学)
最小条件集団における内集団バイアスの説明のために提出された Karp ら(1993)の「コントロール幻想」仮説を囚人のジレンマに適用すると,囚人のジレンマでの協力率が,プレイヤーの持つ相手の行動に対するコントロール感の強さにより影響されることが予測される。本論文では,人々の持つコントロール感の強さを囚人のジレンマでの行動決定の順序により統制した2つの実験を行った。まず第1実験では以下の3つの仮説が検討された。仮説1:囚人のジレンマで,相手が既に協力・非協力の決定を終えている状態で決定するプレイヤーの行動は,先に決定するプレイヤーの行動により異なる。最初のプレイヤーが協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率は,最初のプレイヤーが非協力を選択した場合の2番目のプレイヤーの協力率よりも高い。仮説2:先に行動決定を行うプレイヤーの協力率は,同時に決定を行う通常の囚人のジレンマにおける協力率よりも高い。仮説3:2番目に決定するプレイヤーの協力率は,相手の決定が自分の決定の前に知らされない場合でも,同時に決定を行うプレイヤーの協力率よりも低い。以上3つの仮説は第1実験の結果により支持された。3つの仮説のうち最も重要である仮説3は,追実験である第2実験の結果により再度支持された。
キーワード:内集団ひいき,最小条件集団,囚人のジレンマ,社会的ジレンマ,相互依存性
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災害イメージの間主観的基盤―昭和57年長崎大水害についての会話分析―
永田素彦(京都大学)・矢守克也(奈良大学)
本研究は,人々の昭和57年長崎大水害をめぐる災害イメージについて,その特徴を検討したものである。具体的には,まず,災害イメージについての基本的な考察をし,災害イメージの基底的なタクソノミー―「事象」「事態」―を提示した。前者は災害の知覚現場を基盤にしており,後者は抽象的な概念体系をその存立根拠としている。そして,それに基づいて,今なお強固に災害イメージを保持していると考えられる長崎市在住の4つのグループ(行政(市役所),市民団体M会,A自治会,B自治会)の,長崎大水害をめぐる会話を分析した。その結果,行政とM会は長崎大水害を事態化していること,一方,A,B両自治会は事象化していることを明らかにし,さらに,各グループの災害イメージの内実的特徴を剔出した。最後に,災害イメージを形成することの意味を明らかにし,そのことが「防災意識の風化」と呼ばれる現象に対してもつ含意を考察した。災害イメージを長期にわたって維持するには,単に「事象化」するだけでも(A,B自治会)単に「事態化」するだけでも(行政)不十分であり,両者をリンクさせた形で災害イメージを形成することが必要であることが明らかになった。
キーワード:災害イメージ,自然災害,会話分析,防災,コミュニケーション
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座席配置が気分に及ぼす効果に関する実験的研究
山口 創(早稲田大学)・鈴木晶夫(早稲田大学)
本研究の目的は,気分に及ぼす座席配置の構成要因を明らかにすることである。実験Iでは日常場面でよく見られる座席配置を用いて,座席配置と喚起される気分についての検討を行った。またどちらが先に座っているかの効果についても検討した。その結果,2者が近距離で座るほど緊張感と親密感がともに高くなり,相手から見られていることが緊張感との間に関連が見られることが示唆された。実験IIでは座席配置の構成要因を距離,位置,身体方向にわけてこれらを統制した場面を設けてそれぞれと気分との関連を検討した。その結果,緊張感に及ぼす座席配置の要因は距離と,相手に対して自分がとる位置であること,親密感に及ぼす座席配置の要因は距離と,相手と自分との座席の対称性であることがわかった。実験IIIでは,座席配置の構成要因の中で,視線と気分の関連性について検討した。その結果,緊張感に及ぼす位置の効果は相手から受ける視線と同一であること,視線に関わらず,相手との対称性によって親密感が喚起されることが明らかになった。
キーワード:座席配置,気分,非言語行動,緊張感,親密感
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被害者への否定的評価に関する実験的研究―「いじめ」の被害者を中心として―
大野俊和(北海道大学)
「いじめの被害者にも問題がある」とする見解は,一般的によく聞かれる見解である。本研究の目的は,攻撃が「いじめ」として定義される特徴的な形によって,この見解が生じてしまう可能性について検討することにある。本実験では,以下の2つの仮説が検討された。(1)ある攻撃が,単独の加害者により行われる場合に比べ,集団により行われた場合の方が,被害者は否定的に評価される。(2)ある攻撃が,一時的に行われる場合に比べ,継続的に行われた場合の方が,被害者は否定的に評価される。本実験の結果により,仮説1は支持されたが,仮説2は支持されなかった。また予備実験の結果から,否定的評価と関連する個人差要因として「自己統制能力への自信」と「社会一般に対する不信感」と解釈される2つの信念・態度の存在が指摘された。
キーワード:いじめ,被害者に対する否定的評価,正当世界信念仮説,帰属
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自己参照方向づけ課題の認知処理の特性
岡田圭二(広島大学)
本研究の主目的は,自己参照方向づけ課題の認知処理特性の検討である。自己参照方向づけ課題として好き嫌い評定課題を用いた。実験1では,好き嫌い評定課題が自由再生課題において他の自己参照方向づけ課題と同じ効果を産み出すか否かを検討した。自由再生の結果は,自己参照効果を示した。実験1の結果は,好き嫌い評定課題を自己参照方向づけ課題としてみなす根拠を与えた。実験2では,被験者は,まず物理,意味,及び自己参照方向づけ課題を課された。それから被験者は,文字手掛り再生課題,単語断片手掛り再生課題,カテゴリー名手掛り再生課題の記憶課題を受けた。カテゴリー名手かがり再生課題の結果は自己参照効果を示していた。これらの結果は自己参照方向づけ課題が概念駆動型処理の認知特性を持つことを明らかにした。
キーワード:記憶,自己参照効果,方向づけ課題,概念駆動型処理
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情報処理の視点が illusory correlation (誤った関連づけ) 現象に及ぼす効果
田村美恵(京都大学)
Illusory correlation (以下,IC)に関しては,先行研究間で必ずしも一致した現象の型が得られていない。Hamilton & Gifford (1976)は,多数集団と少数集団を設定し,望ましい行動と望ましくない行動の比率を集団間で一定にして提示した。その結果,望ましい行動を相対的に多く提示した場合は,多数集団の方がポジティヴに評価され,望ましくない行動を多く提示した場合は,少数集団の方がポジティヴに評価された(本研究では,こうしたIC現象をHG型と呼ぶ)。これに対して,日本の先行研究(e.g., 白井,1979;Sugimori, 1991)では,行動内容の比率に関わらず,常に一方の集団(主に多数集団)が他方の集団(主に少数集団)よりポジティヴに評価されるという現象(本研究では,SS型と呼ぶ)を見出している。本研究では,この2つの型の相違が,「情報処理の視点」という新たな要因を考慮することで,解釈されることを示した。HG型のIC現象は,誰がどのような行動をしたかという個人情報中心の処理が行われた場合に見出された。一方,SS型のIC現象は,どの集団でどのような行動があったかという集団情報中心の処理が行われた場合に見出された.これらのことから,IC現象の生起において,「情報処理の視点」が重要な役割を果たすことが示唆された。
キーワード:illusory correlation 現象,HG型,SS型,情報処理の視点
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援助行動の質―援助の質の高さと関連する性格特性とジェンダー―
伊東秀章(慶應義塾大学)
従来の援助行動研究の多くは,援助を「する,しない」という点が検討の中心となっており,行われた援助の内容やそれが被援助者に与える影響についての考察が不足していたように思われる。そこで本研究は,援助行動に「質」という概念を導入し,質の高さという点から援助を検討すること,また,援助の質の高さと援助者の性格特性,ジェンダーとの関連を明らかにすることを目的として行われた。第1調査では,質の高い援助を「被援助者によって望ましいとみなされ,かつ,被援助者の自尊心の支えとなるような援助」,および,質の低い援助を「被援助者によって望ましいものとみなされず,かつ,被援助者の自尊心への脅威となるような援助」と定義し,複数の援助場面における様々な援助方法を質の高さによって分類した。第2調査では,第1調査の結果,4つの援助方法を質の高い援助と質の低い援助それぞれ2つずつに分けることが可能であった5場面を使用し,援助者の性格特性(共感性,自己顕示性,持久性,社会的外向性)やジェンダーと援助の質の高さとの関連を検討した。場面全体の分析からは,予想に反して,共感性の高い人は質の高い援助も質の低い援助も両方行いやすいことが見いだされた。また,女性は「質の高い援助は行うが,質の低い援助は行わない傾向」が男性よりも強かった。場面ごとの分析からは,場面によって関連のある性格特性,ジェンダーの効果が異なることが見いだされた。最後に,今後の課題として,質を他の側面からもとらえる必要があること,さらに多くの援助場面を使用する必要のあること,援助の質と援助コストとの関連を検討する必要があることが示唆された。
キーワード:援助行動,質,性格特性,ジェンダー
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日常生活における怒りと攻撃性の表出
山口 浩(株式会社 CRC 総合研究所)
本研究では,日常生活における怒り喚起の要因を,面接調査を行い検討した。怒り喚起の要因は,損傷,意図,予測性の3要因である。調査対象者は,P-F スタディによって,「自罰」傾向の者7名,「他罰」傾向の者7名,合計14名を選定し,2群の性格特性を比較して,怒り喚起要因の評価の違いを検討した。その結果,3要因はいずれも怒り喚起に有意に影響し,性格特性による違いもみられなかった。また,3つの要因の怒り喚起の効果を順位相関係数から測定した結果,意図>損傷>予測性の順で強くなっていた。2つの性格特性を比較すると,「自罰」傾向では,意図と損傷の効果に差がみられなかったが,「他罰」傾向では,意図の効果が損傷の効果よりも大きい傾向が示唆された。つまり,怒りを喚起する要因は,性格特性の違いに関わらず有意に働くが,要因の評価は,性格特性の違いによって異なることが明らかとなった。さらに面接調査により,怒り喚起後の反応をみると,この要因の評価の違いが,怒りを引き起こすできごとに直面した際にとる行動に影響を及ぼすことが示された。「自罰」傾向の者は、損傷を与えた相手への直接的な行動を避け,損傷の回復を相手に求めない傾向がみられた。これに対して「他罰」傾向の者は,損傷を受け怒りを感じた後に,その損傷を回復するように相手に直接行動をとろうとする傾向が示された。
キーワード:攻撃性,怒り,損傷,意図,予測性
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