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機関誌「実験社会心理学研究」
第37巻 第1号
(1997年6月発行)
目次(INDEX)
一般論文
- 論文
- ●樂木章子:乳児院乳児の特徴的行動に関する身体論的考察
- ●岡田圭二:評価的判断が記憶成績に与える影響―自己参照と社会的参照に注目して―
- ●菊地雅子・渡邊席子・山岸俊男:他者の信頼性判断の正確さと一般的信頼―実験研究
- ●廣岡秀一・山中一英:対人認知次元の構造的変化に関する縦断的研究
- ●橋本剛:対人関係が精神的健康に及ぼす影響
―対人ストレス生起過程因果モデルの観点から― - ●村本由紀子・山口勧:もうひとつの self-serving bias:
日本人の帰属における自己卑下・集団奉仕傾向の共存とその意味について - ●田中優・高木修:阪神・淡路大震災による遠隔地仮設住宅における被災者の研究(1)
―地震から1年後の被災者の身体的・精神的健康状態―
一般論文 / 論文 (要約)
乳児院乳児の特徴的行動に関する身体論的考察
樂木章子(関西大学)
乳児院における長期の観察を通じて,乳児院乳児に特徴的な3つの行動を見出した。すなわち,@対面的に自分をあやしている保母がいるにもかからわず,離れた場所で他の乳児をあやしている保母に対して生じるほほえみ,Aそばにいる保母に全く気づかぬかのように継続される没入的な探索行動,B一般的には愛着の対象となるようなぬいぐるみに対する恐怖反応である。これら3つの行動について,大澤(1991a)の社会学的身体論に基づき考察した。具体的には,上記3つの行動を,乳児院乳児においては,(1)母子の間で形成されるような間身体的連鎖が形成されにくいことから,抑圧身体の擬制が遅延し,過程身体の水準が支配的な時期が長期化すること,および,(2)抑圧身体の擬制を回避する傾動が生じることの2点に起因するものとして説明した。
キーワード:乳児院,乳児,社会学的身体論,共同主観性
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評価的判断が記憶成績に与える影響―自己参照と社会的参照に注目して―
岡田圭二(広島大学)
本研究では,Ferguson, Rule, & Carson (1983)の評価的判断が自己参照,社会的参照における記憶促進に重要な役割を果たしているという説をより詳細に検討した。検討のために,評価的判断を要求する課題である個人的好き嫌い評定課題と社会的好ましさ評定課題を用いた。実験1では2つの課題の記憶促進の程度を自由再生によって比較した結果,記憶成績に差はなかった。この結果は,Ferguson et al. (1983)を支持していた。実験2,3では,課題の参照対象が同じために同じ程度の記憶成績になった可能性を検討するために,両課題の参照対象を比較した。実験2では,同じ単語を両課題により評定した。その結果,評定値の相関係数は低かった。実験3では,同じ参照対象に連続して参照するならば,促進効果が現れるという考えに基づいている課題促進パラダイムを用いた比較を行った。その結果,同じ課題を連続して行った場合にのみ,促進効果が現れた。実験2,3より,個人的好き嫌い評定課題と社会的好ましさ評定課題の参照対象は異なることが示唆された。これらの結果より,自己,社会的基準それぞれの評価的側面が記憶成績の促進に影響していると考えられる。
キーワード:キーワード:評価的判断,自己参照効果,個人的好き嫌い評定課題,社会的好ましさ評定課題
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他者の信頼性判断の正確さと一般的信頼―実験研究
菊地雅子(北海道大学)・渡邊席子(北海道大学)・山岸俊男(北海道大学)
他者一般の信頼性についての信念である一般的信頼の高さが必ずしもその人の騙されやすさを意味しないという Rotter (1980)の議論,および高信頼者は低信頼者よりも他者の信頼性(ないしその欠如)を示唆する情報により敏感であるという小杉・山岸(1995)の知見を,情報判断の正確さにまで拡張することによって導き出された「高信頼者は低信頼者に比べ,他者の一般的な信頼性についての判断がより正確である」とする仮説が実験により検討され,支持された。この結果は,他者一般の信頼性の「デフォルト推定値」としてはたらく一般的信頼の高低と,特定の他者の信頼性を示唆する情報が与えられた場合のその相手の信頼性の判断とは独立であることを示している。すなわち,高信頼者は騙されやすい「お人好し」なのではなく,むしろ他者の信頼性(ないしその欠如)を示唆する情報を適切に処理して,他者の信頼性(ないしその欠如)を正確に判断する人間であることを示唆している。最後に,社会環境と認知資源の配分の観点からこの知見を説明するための一つのモデルが紹介される。
キーワード:信頼,対人認知,騙されやすさ,囚人のジレンマ
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対人認知次元の構造的変化に関する縦断的研究
廣岡秀一(三重大学)・山中一英(名古屋大学)
本研究の目的は,階層的主成分分析(村上,1990)を用いて,対人認知次元の時系列的変化および次元上の得点の変化を構造的に検討することであった。 97名の女性の大学新入生が,入学して始めて出会った同性の他者の印象を8ヶ月間に5時点にわたって評定した。加えて,認知的複雑性の測定が,最後の印象評定から約1年後に実施された。 得られた主な結果は以下の通りである。(1)時点を通して共通した次元として「個人的親しみやすさ」,「社会的望ましさ」,「活動性」の3つの次元が抽出された。(2)出会いの初期から比較的安定した因子得点と,時点によって変動する因子得点とが同一次元上に見いだされた。(3)評価次元と活動性次元では時系列的変化のパターンが異なっていた。(4)認知的複雑性は出会いの初期の印象と関連する可能性が示唆された
キーワード:対人認知,縦断的研究,階層的主成分分析,認知的複雑性,3相データ
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対人関係が精神的健康に及ぼす影響―対人ストレス生起過程因果モデルの観点から―
橋本 剛(名古屋大学)
近年,ソーシャルサポートと精神的健康に関する研究が盛んに行われている。しかしその一方で,対人関係は強力なストレッサーにもなり得ることが多くの研究で指摘されている。そこで本研究はストレスの認知的評価・対処理論(Lazarus & Folkman, 1984)を参考に,対人関係が精神的健康に及ぼす肯定的/否定的両側面の影響を包括し得る枠組みとして対人ストレス生起過程因果モデルを提唱し,その検証を試みた。まず研究Iでは,ソーシャルネットワークの大きさがネットワークストレインを規定し,ネットワークストレインが対人ストレスイベントを規定し,対人ストレスイベントがディストレスのもっとも強い規定因であるという一連のパスが見いだされた。次に,ソーシャルサポートを導入した研究IIでは,ソーシャルネットワークとソーシャルサポートの間に強い関連がみられるものの,サポートのディストレスに対する影響力は対人関係の否定的な側面の影響力に及ばないことが明らかにされた。二つの研究から,対人ストレスイベント生起過程因果モデルの妥当性が考察され,このモデルに関する今後の課題・展望が議論された。
キーワード:対人ストレス生起過程因果モデル,ソーシャルネットワーク,ネットワークストレイン,ソーシャルサポート,対人ストレスイベント
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もうひとつの self-serving bias:
日本人の帰属における自己卑下・集団奉仕傾向の共存とその意味について
村本由紀子(東京大学 日本学術振興会特別研究員)・山口 勧(東京大学)
本研究は,日本人の帰属における自己卑下・集団奉仕傾向の共存を実証することを目的に行われた。検証された仮説は以下の通り。(1)集団の中の個人は,自らの遂行については自己卑下的帰属を行い,内集団の遂行については集団奉仕的帰属を行う傾向が見られる;(2)仮説(1)の傾向は内集団の他者に好印象を与えるための自己呈示戦術と考えられるため,内集団成員の前で公に帰属を表明するときに,より顕著に現われる。 成功状況を扱った実験1・失敗状況を扱った実験2の結果,いずれも,仮説(1)の通り,帰属における自己卑下と集団奉仕傾向が実証された。この傾向は集団内の他者の自尊心への配慮の表れであると同時に,集団を単位とした間接的な自己高揚の方策として捉えることができる。また,仮説(2)については2つの実験の結果は一貫していなかったが,いずれの結果も,集団奉仕的帰属が,単なる内集団他者への自己呈示戦術ではなく,より内面化された傾向であることを示唆するものであった。
キーワード:原因帰属,自己奉仕的バイアス(self-serving bias),自己卑下的帰属傾向,集団奉仕的帰属傾向
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阪神・淡路大震災による遠隔地仮設住宅における被災者の研究(1)
―地震から1年後の被災者の身体的・精神的健康状態―
田中 優(関西大学)・高木 修(関西大学)
本研究の目的は,阪神・淡路大震災により被災し,遠隔地仮設住宅で生活する被災者の地震から1年後の身体的・精神的健康状態を明らかにすることである。地震発生から約1年後の1996年1月20日から31日までの期間に,ある仮設住宅の全入居者415名(男性191名,女性224名)を調査対象者として質問紙調査を行った。その結果,101名の回答者からの回答を得た。 身体的健康については,男女共に,肩や腰の痛みの症状を多く訴えていた。男性は女性よりも,飲酒の量が増えていた。一方,女性は男性よりも,口内炎や便秘などの具体的な症状を多く訴えていた。精神的健康(GHQ20項目版,福西,1990)については,男性の約5割,女性の約8割がハイリスク群に分類された。 一般に,男性よりも女性の身体的,および精神的健康状態の方がいっそう悪いことが明らかとなった。
キーワード:阪神・淡路大震災,遠隔地仮設住宅,身体的・精神的健康,GHQ20
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資 料 (要約)
脅威アピールにおける防護動機理論研究の検討
木村堅一(広島大学)
本稿では,脅威アピールの説得効果を7つの要因から説明しようとする Rogers (1983)の防護動機理論(PMT)に基づいて脅威アピール研究を展望した。最初に,明確な形で述べられてこなかった PMT の仮説を整理した上で,PMT の理論検討に必要な4つの作業仮説を提案した。その4つの仮説に基づき先行研究を整理した結果,次のことが見いだされた。1)脅威事象の深刻さ,生起確率,対処行動の効果性,自己効力の各アピール成分は,ある程度独立して受け手の認知に影響を及ぼす。2)深刻さ認知,生起確率認知,対処行動の効果性認知,自己効力認知の増加は説得効果を促進し,反応コスト認知の増加は説得効果を抑制する。ただし,3)対処評価を構成する要因(特に対処行動の効果性)が低く認知される場合,脅威評価を構成する要因(深刻さ,生起確率)の増加は説得効果をもたないか,あるいは説得効果を抑制することがある。4)恐怖感情に比べて認知的要因の方が説得効果をより説明する。 最後に,1)反応コストおよび報酬が脅威アピール効果に及ぼす影響の検討,2)PMT の設定する要因の概念的な整理,の2点が将来の研究課題として残されていることを指摘した。
キーワード:防護動機理論,脅威アピール,説得的コミュニケーション,メッセージ効果,認知媒介モデル/p>
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展 望 (要約)
社会的アイデンティティ研究の概要
柿本敏克(山形県立米沢女子短期大学)
本稿の目的は,第1に社会心理学における集団間関係研究の中心の1つである社会的アイデンティティ研究の概略を紹介することである。理論的に重要な点を取り上げながら紹介し,現在問題となっている論点をいくつか示す。次に集団間関係にともなって生じる内集団ひいき現象について,その基本的諸要素とそれらに対してこれまでなされた代表的な理論的考察を論述する。
キーワード:集団間関係,社会的アイデンティティ,内集団ひいき
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