機関誌「実験社会心理学研究」

第40巻 第1号

(2000年6月発行)

目次(INDEX)

原著論文
下斗米淳:友人関係の親密化過程における満足・不満足感及び葛藤の顕在化に関する研究
 ―役割期待と遂行とのズレからの検討―
山浦一保:部下の行動とリーダーの管理目標がリーダー行動に及ぼす影響
 ―リーダー行動の変容・形成過程に関する研究―
北折充隆・吉田俊和:違反抑止メッセージが社会規範からの逸脱行動に及ぼす影響
 ―大学構内の駐輪違反に関するフィールド実験―
和田 実:大学生の恋愛関係崩壊時の対処行動と感情および関係崩壊後の行動的反応
 ―性差と恋愛関係進展度からの検討―
渡邊としえ・渥美公秀:
 阪神大震災の被災地における「まちづくり」に関するフィールドワーク
 ―西宮市安井地域の事例―
大河内茂美・杉万俊夫:リーダーシップ P-M 行動の効果性に関する数理モデル
 ―生産関数に基づく力学モデル―
展 望
野村竜也:オートポイエーシスの数理的記述に関する展望
 
 

一般論文 / 原著論文 (要約)

友人関係の親密化過程における満足・不満足感及び葛藤の顕在化に関する研究
―役割期待と遂行とのズレからの検討―
下斗米淳(専修大学)

研究は,同性友人関係の親密化過程において,当事者間に,親密さに応じた対人葛藤の生起し易い可能性を検討することが目的であった。大学生男女317名(男性104名,女性213名)を調査対象として,実際の交際相手との相互作用を想定させた上で,役割行動期待尺度(下斗米, 1991, 1999b)を用い,相手に対する期待度,遂行度,満足・不満足度を測定した。
また,最近生起した実際の葛藤事態の自由記述を求めた。その結果,親密化過程の段階によって期待される役割行動の様相が異なり,これに応じて葛藤原因として顕在化し易い,あるいは顕在化し難い役割行動も異なっていくことが見い出された。
この結果に基づき,親密化過程において,役割行動の遂行は,当該段階での友人関係の維持に必要とされる一方で,それゆえにまた対人葛藤を引き起こす原因にもなり得る可能性が考察された。

キーワード:友人関係の親密化過程,対人葛藤,役割行動,期待,遂行

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部下の行動とリーダーの管理目標がリーダー行動に及ぼす影響
―リーダー行動の変容・形成過程に関する研究―
山浦一保(広島大学)

本研究は,リーダーの課題関連行動,あるいは社会情緒的行動が出現する背景に,部下の行動やリーダーの管理目標がどのように関与しているのかを明らかにするため,リーダー行動の変容・形成過程を吟味した。研究1では,部下の不満対処行動に対するリーダーの認知と,リーダー自身のリーダーシップ PM 行動(三隅, 1978)との関連について検討した。看護組織を対象に調査を行った結果,自分の部下が不満を感じても「服従」していると認知しがちなリーダーの方が,自分の部下は「服従していない」と認知しがちなリーダーよりも,自己評価によるM得点が高かった。研究2で用いた要因計画は,2(作業者のP行動・M行動)×2(リーダーの課題指向の管理目標・関係指向の管理目標)であった。被験者は,男子大学生38名で,それぞれ4人集団のリーダー役に任命された。主な結果は,次の通りである。
(1)課題指向的リーダーは,メンバーどうしの連帯感が強い M的行動をとる作業者よりも,高い生産性をあげ P的行動をとる作業者に対して,配慮的行動を多く用いるようになった。
(2)課題指向的リーダーは,関係指向的リーダーよりも強制的な指示を増加させ,とりわけ,M的行動をとる作業者に対して,攻撃的な言動を多用するようになった。
(3)関係指向的リーダーの場合,P的行動をとる作業者よりも M 的行動をとる作業者に対して,課題に関連する情報を提供しなくなり,頻繁に雑談を行った。
(4)関係指向的リーダーは,P的行動をとる作業者に対して配慮的な行動を増加させ,同時に,方向づけの増加と情報提供の減少という課題関連行動の変容が認められた。以上の結果から,リーダーの PM 型は,課題指向的リーダーが,生産性の高い作業者を統率する状況で形成されやすいことが示唆された。

キーワード:キーワード:部下の P 的行動/M 的行動,管理目標,リーダー行動の変容,PM 理論

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違反抑止メッセージが社会規範からの逸脱行動に及ぼす影響
―大学構内の駐輪違反に関するフィールド実験―
北折充隆(名古屋大学)・吉田俊和(名古屋大学)

本研究は,社会規範からの逸脱行動に対する違反抑止メッセージについて,以下の5タイプのメッセージ効果について検討した。(1)ここは駐輪禁止。(2)ここは駐輪厳禁。(3)ここに駐輪すると後の人も続くので,自転車を止めないで下さい。(4)ここに駐輪すると通行の邪魔です。自転車を止めないで下さい。(5)ここに駐輪した場合,自転車を撤去します。自転車を止めないで下さい。本研究は,大学構内での駐輪違反に着目し,3つの実験を実施した。実験1では,2つの看板を3メートル間隔で設置したが,看板の間に自転車が駐輪されていないことが強く影響して,誰も駐輪をしなかった。実験2では,1,2台の自転車をあらかじめ駐輪させ,逸脱者の存在を顕示した。その結果,制裁を提示したメッセージに大きな効果が見られた。その他のメッセージでは,約半数がメッセージに従い,自転車を別の場所に移動した。実験3では,多数の逸脱者が存在していることを,5台の自転車を置いておくことで顕示させ,メッセージの効果を検討した。その結果,制裁提示のメッセージ効果がなくなり,全てのメッセージにおいて,約半数が別の場所に自転車を移動させた。

キーワード:社会規範からの逸脱行動,駐輪違反,違反抑止

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大学生の恋愛関係崩壊時の対処行動と感情および関係崩壊後の行動的反応
―性差と恋愛関係進展度からの検討―
和田 実(東京学芸大学)

本研究は,大学生が恋愛関係崩壊に際してどのような対処行動をとり,崩壊時にどのような感情を抱くのか,さらに崩壊後にどのような行動的反応をとるのかを性差と崩壊時の恋愛関係進展度の観点から調べた。被験者は大学生239(男性116,女性123)名であった。いずれも,異性としばらく付き合った後に,その関係が崩壊した経験のある者のみである。恋愛関係崩壊への対処行動として“説得・話し合い”,“消極的受容”,および“回避・逃避”,崩壊時の感情として“苦悩”,崩壊後の行動的反応として“後悔・悲痛”と“未練”が見いだされた。恋愛関係が進展していた者ほど,崩壊時に説得・話し合い行動がより多くとられ,崩壊時の苦悩が強く,崩壊後の後悔・悲痛行動と未練行動が多かった。女性は,関係が進展していた者ほど回避・逃避行動をとらなかった。関係進展度に関わらず,男性は女性よりも消極的受容行動を多くとった。さらに,もっとも進展した関係が崩壊した場合のみで,男性よりも女性の方が多くの説得・話し合い行動をとる一方,回避・逃避行動をあまりとらなかった。

キーワード:恋愛関係崩壊,性差,恋愛関係進展度,大学生

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阪神大震災の被災地における「まちづくり」に関するフィールドワーク
―西宮市安井地域の事例―
渡邊としえ(大阪大学)・渥美公秀(大阪大学)

阪神大震災(1995)の被災地である西宮市安井地域で約4年にわたるフィールドワークを実施した。安井地域では,震災後,2つの創発的組織(「ファミリー安井」,「安井まちづくり協議会」)が生まれ,それぞれの組織を通じて,2つの「まちづくり」が展開された。本研究では,これら2つの「まちづくり」の事例から,複数の「まちづくり」が時間的・空間的に併存し,螺旋的に変容することを例証した。そして,安井地域の「まちづくり」を近代の重層化の事例として捉え,川瀬光一街づくりプロデュース研究所(1989)による「都市計画学」と「まち創造学」,中村(1992)による<近代の知>と <臨床の知>という概念,および,渥美(1998)による集合的即興ゲーム論を援用し,近代化を遂げた豊かな社会について展望した。

キーワード:阪神大震災,まちづくり,フィールドワーク

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リーダーシップ P-M 行動の効果性に関する数理モデル
―生産関数に基づく力学モデル―
大河内茂美(大分大学)・杉万俊夫(京都大学)

集団目標の達成を志向する P 行動と,人間関係それ自体の維持を志向する M 行動という,2種類の行動形態によってリーダーシップ行動を把握しようとする P-M 論に基づき,P 行動と M 行動の効果性に関する数理モデルを提出した。P 行動の下位形態として,メンバーの能力向上を志向する P 行動と,累積目標達成量の増加を志向する P 行動を設定し,これらに M 行動を加えた3つのリーダーシップ行動の時間的関数として効果性を定式化した。第1に,「メンバーの能力」と「人間関係の円滑さ」が,「集団モラール」に与える効果を,経済学における生産関数を援用して定式化した。第2に集団モラールは,メンバーの能力向上,人間関係の円滑化,累積目標達成量の増加に利用されるものとし,それぞれに対する利用は,上記3つのリーダーシップ行動によって決まるものとした。数理モデルの解析には,ポントリャーギンの最大値の原理を用いた。本モデルは,これまでの実証的研究の成果に対して,有効な解釈を与えうることが示唆された。

キーワード:リーダーシップ,P-M 論,数理モデル

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一般論文 / 展 望 (要約)

オートポイエーシスの数理的記述に関する展望
野村竜也(シャープ(株)技術本部システム開発センター)

本稿は,オートポイエーシス理論とその数理的記述モデルを紹介し,オートポイエーシスの数理的記述が社会心理学においてもたらす含意を検討することを目的とした。最初に,オートポイエーシス理論を概観し,その特徴を明らかにした上で,社会心理学の隣接分野での展開について記述した。次に,オートポイエーシス理論の難解さの原因について,外部観察主義者の定義を含めてこの視点から検討し,現時点での数理的記述モデルについて外部観察主義的視点から紹介を行ない,その問題点について検討した。最後に,現在の社会心理学分野の状況におけるオートポイエーシスの数理的記述の持つ含意について検討した。

キーワード:オートポイエーシス,記述可能性,代謝―修復システム,抽象化学,計算論

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