機関誌「実験社会心理学研究」

第40巻 第2号

(2001年7月発行)

目次(INDEX)

原著論文
大野俊和・長谷川由希子:「いじめ」の被害者に対する外見的ステレオタイプ
展望論文
矢守克也:社会的表象理論と社会構成主義―W. Wagner の見解をめぐって―
資料論文
河野和明:
 自己隠蔽尺度(Self-Concealment Scale)・刺激希求尺度・自覚的身体症状の関係
川西千弘:顔の知的さが総合的印象に及ぼす効果
小出 寧:性別受容性尺度の作成
杉本久美子:準拠情報的影響過程における Group Polarization 効果
田島 司:日常の対人関係と実験場面における内集団の成立について
 

書評

高木英至:山岸俊男著「安心社会から信頼社会へ」

 

一般論文 / 原著論文 (要約)

「いじめ」の被害者に対する外見的ステレオタイプ
大野俊和(北海道大学)・長谷川由希子(北海道大学)

本研究では,いじめの被害者に対する外見的ステレオタイプについて検討した。調査対象者に,彼らとはまったく面識のない,中学校の卒業アルバムから得た2クラス分の生徒写真(49枚)を刺激として提示し,いじめの被害者を判断させた場合,彼らの判断がどの程度一致するかを検討した。その結果,多くの写真において調査対象者間の判断が一致することはなかったが,数枚の写真において判断は強く一致していた。ある写真では,約 70%の調査対象者による判断の一致が示された。また,別調査の結果,強い一致が見られた写真の外見的特徴として,一般的な弱さが示された。そして,クラスに在籍していた級友に対して実際のいじめの被害者が誰であったかを調査した結果,面識のない調査対象者が,いじめの被害者として想定した人物の多くは,実際のいじめの被害者ではないが,調査対象者の7割がいじめの被害者として想定する1名の人物は,級友から実際にいじめの被害者であったとの報告を最も多く得ていた。

キーワード:いじめ,外見的ステレオタイプ,被害者

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一般論文 / 展望論文 (要約)

社会的表象理論と社会構成主義
―W. Wagner の見解をめぐって―
矢守克也(奈良大学)

本稿は,モスコビッシ(S. Moscovici)が提唱した社会的表象理論は,個別的な対象をターゲットにした個別理論ではなく,従来の社会心理学理論の多くが,その前提として依拠している認識論―主客2項対立図式―に抜本的な改訂を迫るグランド・セオリーであることを明示し,かつ,そのことを理解する鍵が,本来,本理論と一体のものとして提起された社会構成主義の主張を,徹底した形式で導入することにあることを明らかにしようとするものである。具体的には,近年,同理論について精力的に検討しているワーグナー(W. Wagner)の著作を参照しながら,次の3点について論述した。第1に,社会的表象が,認知する主体の「内部」に存在する心的イメージの一種と考える誤解(第1の誤解)を解消するために,社会的表象とは,むしろ,認知される対象であって,主体の「外部」に存在するものであるとの主張を行なう。第2に,この主張は,第1の誤解を払拭するために導入した第2の誤解であることを明示し,両方の誤解をともに解消して,社会的表象とは,「外部」に存在する対象そのものではなく,それをそのようなものとして,主体の前に現出させる「作用」であることを明らかにする。最後に,上の理解になお残存する第3の誤解―主体だけは,その作用に先だって,「内部」に自存すると考える誤解―をも解体し,社会的表象とは,「内部(主体)」と「外部(対象)」とが混融した状態から,両者を分凝的に現出させる「作用」であることを示す。

キーワード:ムード,社会的表象理論,社会構成主義,主客2項対立図式,認知社会心理学

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一般論文 / 資料論文 (要約)

自己隠蔽尺度(Self-Concealment Scale)・刺激希求尺度・自覚的身体症状の関係
河野和明(松山東雲女子大学)

自己隠蔽尺度(SCS; Larson & Chastain, 1990)を日本語に翻訳し,さらに新たな項目を加えたうえで取捨選択し,日本語版自己隠蔽尺度を作成した。これに,木田ら(1993)が開発した刺激希求尺度を加えて,身体症状尺度との関係を検討した。友人の数,親友の数,雑談頻度,外的刺激希求尺度を統制したうえで,内的刺激希求尺度と自己隠蔽尺度は自覚的な身体症状と有意な相関を示した。この結果は,隠蔽した嫌悪的記憶の量と記憶へのアクセス頻度が積極的抑制(Pennebaker, 1989)によって生じるストレスを規定する可能性を示唆している。

キーワード:自己隠蔽,刺激希求,ストレス,身体症状

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顔の知的さが総合的印象に及ぼす効果
川西千弘(神戸親和女子大学)

対人認知における顔の影響について検討した。93名の女子学生が実験に参加した。彼女たちには,刺激人物の行動情報と顔写真(半分の被験者には知的な顔写真が,その他には非知的な顔写真)が提示され,その人物の印象と知的行動可能性について評定することが求められた。その結果,以下のことが明らかになった。(1)前述のいずれの評定においても,知的な顔と非知的な顔では差が大きく,知的な顔をした刺激人物の方がより知性が高く,賢明な行動をしやすいと判断された。(2)顔のみから推測される知的さについて実験的に統制すると,上記の差は消失したが,顔のみから推測される好意度について実験的に操作しても,その差を相殺することはできなかった。つまり,われわれは魅力的な顔の人物だからといってより知性が高いと認知するのではなく,少なくともその他の対人情報が曖昧であったり,判断性に乏しかったりする場合は,顔から直接的に他者の知性を読みとり,それを用いて印象を形成することが明らかになった。

キーワード:印象形成,顔の知的さ,言語情報

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性別受容性尺度の作成
小出 寧(株式会社協栄データサービス)

本研究では,性別受容性尺度を作成し,その信頼性・妥当性を確かめることを目的とする。方法は質問紙法で,学生(男性 117人,女性117人)を対象に調査を行なった結果,信頼性は十分に確認されなかったが,妥当性は確認された。得られた知見は,(a)性別受容性は男性より女性のほうが低く,(b)男女とも,自己の性別と一致するジェンダー・パーソナリティが高いほど性別受容性が高くなる方向で作用する一方,(c)男女とも,自己の性別と反対のジェンダー・パーソナリティが高いほど性別受容性が低くなる方向で作用し,(d)フェミニスト志向が強いほど性別受容性が低くなる,の4点であった。

キーワード:性別受容性,性差,ジェンダー・パーソナリティ,フェミニスト志向,社会規範。

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準拠情報的影響過程における Group Polarization 効果
杉本久美子(日本女子大学)

本研究では,極化したプロトタイプに同調するという準拠情報的影響過程の立場から,Group Polarization(集団成極化:以下 GP と略す)の生起過程を明らかにすることを目的とした。プロトタイプは内集団の類似性と外集団との差異性を考慮したメタ・コントラスト比(MCR)で規定される。内集団と外集団の態度が同質の場合には,内集団の位置づけをより明確にしようとするためプロトタイプが極化し,そのプロトタイプに同調することで GP が生起する,また態度が異なる場合では方向性にかかわらず生起しないと仮説を立て,実験検証を行った。外集団の態度は内集団と同質,同方向だがより極端,逆方向の3水準に設定し,VTR で操作した。VTR を呈示した後,実験参加者に討論を行わせた結果,仮説は支持される傾向を示した。また,従来の GP 研究の従属変数である態度変化量と本研究で用いた準拠情報的影響過程による同調との関連性を検討した結果,外集団が同質な条件ではプロトタイプへの同調が生起し,実際の態度変化も生起したことから,GP を準拠情報的影響過程で説明することの妥当性が示唆された。

キーワード:準拠情報的影響過程,集団成極化,プロトタイプ,メタ・コントラスト比,同調

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日常の対人関係と実験場面における内集団の成立について
田島 司(日本学術振興会(学習院大学))

本研究の目的は,日常生活における対人関係が実験場面における内集団バイアスと協力行動とに与える影響を検討することである。87名の女性の調査対象者は,日常での対人関係に関するいくつかの質問に回答するよう求められた。その回答によって,他者との同一化の程度と,自己の役割を顧みている程度が測定された。実験参加者は無作為に2つの集団のどちらか一方に所属するよう割り振られ,その後集団成員の属性について評価するよう求められた。また,被験者は社会的ジレンマ状況におかれ,100ポイントを自己と内集団とに対して分配するよう求められた。実験の結果は以下の通りである,(a)能力評価における内集団バイアスは家族との同一化と負の相関関係にあった,(b)協力的分配は家族での自己の役割を顧みる程度と正の相関関係にあった。

キーワード:内集団バイアス,社会的ジレンマ,同一化,役割関係

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