機関誌「実験社会心理学研究」

第41巻 第1号

(2002年1月発行)

目次(INDEX)

原著論文
矢守克也:社会的表象としての「活断層」
 ―内容分析法による検討―
小杉考司・藤澤隆史・水谷聡秀・石盛真徳:ダイナミック社会的インパクト理論における
 意見の空間的収束を生み出す要因の検討
戸塚唯氏・早川昌範・深田博己:環境ホルモン対処行動意図に影響を及ぼす要因の検討
 ―防護動機理論の枠組みを用いて
田鍋佳子:集団内における自己の勢力認知が内集団変動性知覚に及ぼす効果
資料論文
安達智子:就業動機尺度の概念的妥当性 ―動機,自己効力感との関連性について―
中丸 茂:文化心理学と随伴性 ―随伴性の心理学からの提言―
 

書評

福島 治:土肥伊都子・諸井克英「福祉の社会心理学―みんなで幸せになる方法」

 
 

一般論文 / 原著論文 (要約)

社会的表象としての「活断層」―内容分析法による検討―
矢守克也(奈良大学)

阪神・淡路大震災の後,それまで,特殊な専門用語に過ぎなかった「活断層」という言葉が,広く人々に知られるようになった。本研究は,社会的表象理論(Moscovici, 1984)に依拠して,この言葉が,地震にともなう新奇な事象を「馴致(familiarize)」し,人々の日常世界に取り込まれる過程について検討した。この目的のため,新聞,雑誌に掲載された関連報道の内容分析を行ない,Moscoviciが提起した2つの馴致メカニズム―係留(anchoring)と物象化(objectification)―のそれぞれについて実証的に検討した。具体的には,係留過程については「活断層」に関する比喩表現の分析に,物象化過程については地震前兆証言の分析に焦点をあてた。この結果,特に,地震前兆証言は,その独特の発話形式(回顧的発話形式)に負うて,社会的表象研究が抱える困難―社会的表象が確立した時点で,未確立の時点における様相を記述することの原理的困難―を克服する有力な研究対象の一つであることを示唆した。さらに,社会的表象の概念と認知社会心理学的な諸概念との異同についても論じた。

キーワード:社会的表象,社会的構成,活断層,自然災害,内容分析法

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ダイナミック社会的インパクト理論における意見の空間的収束を生み出す要因の検討
小杉考司(関西学院大学)・藤澤隆史(関西大学)・水谷聡秀(関西大学)・石盛真徳(京都光華女子大学)

本研究は,ダイナミック社会的インパクト理論の一連の研究における,空間的収束という結果をうみだす要因を特定することを目的としている。そのため,ダイナミックインパクト理論で用いられている,シミュレーションモデルに含まれている変数の効果を検証するべく四つのモデルを作った。派閥サイズモデルや累積的影響モデルでは二種類の連続変数をもち,影響力の強さに個人差が付与されていたが,本研究のモデルAおよびBは一種類の強度変数しか持たせず,さらにモデルCは影響力の個人差をなくした。モデルDは距離を離散的に表した,近傍という変数を持つモデルである。結果は,いずれのモデルにおいても空間的収束が見られるというものであり,影響力の数や個人差,人数という変数は空間的収束の必要条件ではないことが明らかにされた。このことから,結果をバイナリ変数に変換する関数と局所的相互作用という特徴が,空間的収束に必要な条件であると考えられた。また,ダイナミック社会的インパクト理論を展開する方向性が示唆され,この理論から得られるシミュレーションの結果の,誤解や拡大解釈という問題点が指摘された。最後に,コンピュータシミュレーション一般における,モデル構築の容易さが引き起こす問題点と,今後の展望が示された。

キーワード:空間的収束,バイナリに変換する関数,局所的相互作用,コンピュータシミュレーション

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環境ホルモン対処行動意図に影響を及ぼす要因の検討―防護動機理論の枠組みを用いて―
戸塚唯氏(広島大学)・早川昌範(愛知学院大学)・深田博己(広島大学)

防護動機理論(protection motivation theory: PMT)とはRogers(1983)によって提唱された脅威アピールの説得効果を説明するための理論である。本研究の目的はPMTに基づいて,環境ホルモン(擬似エストロゲン物質)の対処行動意図を促進,あるいは抑制する要因を検討することであった。独立変数は,脅威(高・低),反応効果性(高・低),反応コスト(高・低),性(男性・女性)であり,400人の被験者(男性200人,女性200人)を16条件のうちの1つに割り当てた。その後被験者に説得メッセージを呈示し,さらに質問紙に回答させた。分散分析の結果,脅威と効果性,性の主効果が見いだされ,脅威や効果性が大きいほど,また男性よりも女性の方が,環境ホルモン対処行動意図が大きいことが明らかとなった。次に実験的検討を補うために,PMT認知要因(深刻さ,生起確率,効果性,コスト,自己効力,内的報酬),性,恐怖感情を順に説明変数に投入する階層的重回帰分析を行った。その結果,コストを除いたPMT要因と性,および恐怖感情が環境ホルモン対処行動意図に影響を与えていることが明らかとなった。

キーワード:説得,態度変容,防護動機理論,脅威アピール,環境ホルモン

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集団内における自己の勢力認知が内集団変動性知覚に及ぼす効果
田鍋佳子(神戸大学)

本研究は,集団内での自己の勢力認知が内集団変動性知覚に影響を与える過程について探索的に検討した。調査は,東京都のある区に居住する人を対象にランダムサンプリング法に基づいて実施された。その結果,集団内での自己の勢力を高く認知するほど,(a)自己の重要性を高く認知し,(b)他者からの高い評価を推測し,(c)他成員との心理的距離を大きく評定した。そして,他成員との心理的距離が内集団変動性知覚を高めた。内集団知覚について集団内文脈の観点から研究することの意義について議論した。

キーワード:自己の勢力認知,内集団変動性知覚,集団内での関係性,集団内文脈

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一般論文 / 資料論文 (要約)

就業動機尺度の概念的妥当性―動機,自己効力感との関連性について―
安達智子(早稲田大学)

大学生230名を対象として,就業動機尺度の概念的妥当性について検討を試みた。測定変数は(1)就業動機,(2)達成動機,(3)勢力動機,(4)親和動機,(5)自己効力感,(6)仕事活動に対する自己効力感である。就業動機と達成動機,勢力動機,親和動機間の相関係数を男女別に算出したところ,男女ともに達成動機の下位尺度である個人的達成欲求,社会的達成欲求と就業動機の間に関係性がみとめられた。一方,勢力動機,親和動機との関係からは,就業動機下位尺度の特性に男女による質的差異が示された。就業動機を従属変数,自己効力感,仕事活動に対する自己効力感を独立変数とする階層的重回帰分析を行ったところ,いずれの回帰式においても自己効力感の影響を統制した後に,仕事活動に対する自己効力感が独自の説明力を有していた。また,特定の仕事活動に対する効力感が当該の就業動機に有意な回帰をみせており,就業動機の下位側面の特性が明確化された。

キーワード:就業動機,自己効力感,妥当性,大学生,進路選択

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文化心理学と随伴性―随伴性の心理学からの提言―
中丸 茂(駒澤大学)

本論文では,随伴性の心理学の観点より,文化心理学のパラダイムを理論的に分析し,文化と文化的行動についての心理学的研究を発展させるための理論的知見,および,新たなる研究テーマを提出することを目的とする。随伴性の心理学の観点による文化心理学的研究への提言として,(1)心理学的法則(人間の行動)を形成・維持・変容させる条件づけの手続きは,文化間で共通である,(2)文化による心理学的法則の違いが生じるのは,そこで使用される刺激や条件づけられる行動が文化によって違うからである,(3)心理学の目的は,心理学的法則の発見のみならず,法則を形成・維持している手続きを発見することもその目的であり,その観点より,文化によって,よく使用される手続きの発見も重要である,(4)手続きに対する解釈の違いは,文化によって異なっており,そのことから,手続きの有効性も異なってくることが予測される,(5)文化を理想化すれば,文化を実験室で再現でき,実験室レベルでの文化心理学的研究が可能である,という点があげられる。

キーワード:文化心理学,文化,随伴性,随伴性の心理学

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