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機関誌「実験社会心理学研究」
第42巻 第2号
(2003年3月発行)
目次(INDEX)
- 原著論文
- ●河原利和・杉万俊夫:過疎地域における住民自治システムの創造
―鳥取県智頭町「ゼロ分のイチ村おこし運動」に関する住民意識調査― - ●吉田綾乃・浦 光博:自己卑下呈示を通じた直接的・間接的な適応促進効果の検討
- ●相澤寛史:同性友人関係における投資モデルの精緻化
- ●樂木章子:施設で育てられた乳幼児との養子縁組を啓発する言説戦略
―ある養親講座の事例研究― - ●鈴木 勇・菅 磨志保・渥美公秀:日本における災害ボランティアの動向
―阪神・淡路大震災を契機として― - ●中谷内一也・大沼 進:環境リスクマネジメントにおける信頼と合意形成
―千歳川放水路計画についての札幌市での質問紙調査―
学会発表論文
高木邦子:関係初期における否定的対人感情の形成・修正要因の質的検討
追 悼
Michael Argyle 教授を悼む(杉田千鶴子)
Harold H. Kelley 先生を偲んで(白樫三四郎)
一般論文 / 原著論文 (要約)
過疎地域における住民自治システムの創造
―鳥取県智頭町「ゼロ分のイチ村おこし運動」に関する住民意識調査―
河原 利和(京都大学)・杉万 俊夫(京都大学)
強い保守性,閉鎖性を有し,かつ,少数の有力者が集落運営を支配する体制を引きずる,ある過疎地域で進行している住民自治システム創造の試みを,アンケート調査によって検討した。その過疎地域にある89集落のうち,住民自治システム創造のための運動に取り組んで4 ミ 5年が経過した14集落の全住民(青少年を含む)を調査対象にした。その結果,これらの14集落は,同運動に「積極的―中間―批判的」という軸にそって,分類できることが見出された。また,同運動に積極的な集落では,同運動によって導入された新しい集落運営システムが,古い伝統的な運営システムと対等の地位を獲得しつつあること,同運動に批判的な集落では,新しいシステムが古いシステムにのみこまれて,古いシステムの下位システムに位置づけられていることが見出された。
キーワード:過疎地域,住民自治,地域活性化
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自己卑下呈示を通じた直接的・間接的な適応促進効果の検討
吉田 綾乃(広島大学)・浦 光博(広島大学)
自己卑下呈示を通じて適応が促進される過程は2つある。ひとつは自己卑下呈示を行うことそれ自体によって適応が直接的に促進される過程であり,もうひとつは自己卑下的に呈示した内容を他者から「そんなことはない」と否定する反応を受け取ることによって,間接的に適応が促進される過程である。このような影響過程は,自己卑下呈示規範を内在化する程度によって調整されることが考えられる。自己卑下呈示に対して他者が返す “否定反応”は,受け手がその呈示を“卑下”として受け取ったことを示している。自己卑下呈示規範内在化高群は,自己卑下呈示を行う際に否定反応が返されることを当然視しているが,低群はそのように見なしていない。そのため,低群にとって自己卑下呈示に対して“否定反応”が返されることが重要であると考えられる。本研究では,3ヶ月の期間をおいた縦断的な調査において,自己卑下呈示規範内在化高群では直接的な適応促進効果が見られるのに対して,低群では間接的な適応促進効果が見られるだろうと予測し,検討を行った。仮説はおおむね支持された。考察では,直接的・間接的な効果が,対人間適応あるいは個人内適応のいずれに影響を及ぼしていたのかを明らかにする必要性について論じられた。
キ−ワ−ド:自己卑下呈示,自己呈示規範,他者反応,適応
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同性友人関係における投資モデルの精緻化
相澤 寛史(環境省)
本研究では,相手との対人関係から得られる成果と,相手以外の関係からの成果,相手への投資によって対人関係が維持されるとする投資モデルの精緻化を検討した。大学生(N=414)の同性友人関係について1)投資モデルにないが衡平理論の概念である怒りや罪悪感という感情も含めてコミットメントへの影響を調べた結果,コミットメントへは満足が大きな影響を与えていた。関係が続くか否かはその関係への満足により大きな影響を受けており,投資モデルの概念のみでコミットメントの説明は十分であった。2)さらに我々の成果・相手の成果を用い,成果概念を詳細に検討した。モデル中の対人関係より得られる成果を我々の成果・相手の成果と置き換えて共分散構造分析を行った。また,同時に親密さごとについても分析を行った。その結果,親密さが低くなるほど相手の成果を重視する傾向が見られた。怒りを除く全ての社会的交換変数及び罪悪感は親密になるにつれ大きくなった。投資の影響は少なく,女性では親密になればなるほど投資がコミットメントを下げる(関係を崩壊する)方向に働く傾向が見られた。全般的に投資モデルの変数から投資を除いた方がモデルの適合が良くなる傾向を示した。
キーワード:乳児院,乳児,集合的行動,コミュニケーション
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施設で育てられた乳幼児との養子縁組を啓発する言説戦略
―ある養親講座の事例研究―
樂木 章子(京都大学大学院人間・環境学研究科)
本研究では,乳児院や児童養護施設で生活する乳幼児が,血がつながらない育て親(養親ようしん)に養子として引き取られるに至る過程において,その重要な前提である,育て親となる夫婦が養子を迎える決断をなす過程に着目した。具体的には,ある養子斡旋団体が養子を迎えようとする夫婦を対象に実施している養親講座の現場でのフィールドワークに基づき,そこで用いられている言説戦略を分析した。この養親講座においては,養子の子育ての困難さ,とりわけ,施設で生活する子どもとの縁組によって直面する問題が生々しく語られ,夫婦がこれまで築いてきた生活を根底から揺るがされるものであることが強調された上で,夫婦に養子を迎える決断を迫る。このようなプロセスを通して,夫婦がそれまで無自覚に依拠していた諸前提が明確化され,無意識のうちに抱いていた親子関係のイメージが否定されていく。養親講座の言説戦略は,いわば,養子を迎えるという決断が,その後の人生における「公理」として機能しうるような状況を構成していることが示唆された。言い換えれば,養親講座の言説戦略は,血縁という先験性を持たない養親子において,血縁に代替しうるような先験性を構築する試みであることが考察された。
キーワード:施設で育てられた乳幼児,養子と養親(ようしん),養親講座,言説戦略,先験性
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日本における災害ボランティアの動向
―阪神・淡路大震災を契機として―
山口一美(立教大学)
本研究は,阪神・淡路大震災を契機とする日本の災害ボランティアの動向を歴史的経緯を踏まえて整理し,現在展開しつつある災害NPOの全国的なネットワーク化の意義と課題を以下の3点から検討したものである。第一に,日本における民間の災害救援活動の歴史を阪神・淡路大震災以前,震災直後,そして,震災以降の3つに分けて整理した。その結果,阪神・淡路大震災を契機として,災害に関わるボランティアが「防災ボランティア」から「災害ボランティア」へと変容し,災害ボランティアのネットワーク化が求められてきたことが明らかになった。第二に,災害ボランティア・NPOのネットワーク化の現状について,事例調査を基に報告した。災害NPOは,地元地域における従来の活動を維持しつつ,効果的な救援活動を行うために全国ネットワークに参加していることが明らかになった。最後に,災害NPOのネットワークがもつ今後の課題を整理し,日本における災害救援の今後のあり方を考察した。
キーワード:災害ボランティア,阪神・淡路大震災,災害救援,ネットワーク
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災害の「風化」に関する基礎的研究(II)
環境リスクマネジメントにおける信頼と合意形成
―千歳川放水路計画についての札幌市での質問紙調査―
中谷内一也(帝塚山大学)・大沼 進(富士常葉大学)
本研究の目的は,千歳川放水路計画を取りあげ,人々が環境リスクマネジメントの政策決定においてどのような合意形成のあり方を望むのかを検討することである。札幌市民から無作為抽出した成人324名を対象に質問紙調査を行った。調査結果から以下のことが明らかにされた。(1)近傍一般市民の環境アセスメントへの広義の信頼を改善するためには,事業者の不誠実な行為へのモニタリング機能を整備することが有効である。意図への期待が損なわれているときに,専門的能力の高さをアピールしても効果はない。(2)近傍一般市民が好意的に受け取る紛争解決方法はかなり強い当事者主義であり,決定プロセスのどの局面においても利害関係者の意見を入れることを望む。これらの結果からもたらされるリスクマネジメント実務への示唆を検討した上で,さらに,理論的な問題を議論した。
キーワード:環境リスク,合意形成,信頼,リスクマネジメント,公共事業
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一般論文 / 展望論文 (要約)
対人距離の性差に関する研究の展望 ―従属仮説の観点から―
青野 篤子(松山東雲女子大学)
この論文では,まず,対人距離または個人空間(パーソナル・スペース)に関する研究の歴史を概観し,その中でも議論の多い性差に焦点を当てて主要な研究結果と論争点を紹介する。対人距離の性差については,男性より女性の方が小さいという一貫した傾向を認めた上で,その原因を男女の地位の差によって説明する立場(従属仮説)と,結果が一貫しないとする立場とが対立している。従属仮説の観点から研究をより詳細に検討した結果は以下の通りである。1)地位の低い者は高い者より対人距離が小さいと断定するに十分な証拠はない。すなわち,被験者ないし相手の地位それ自体が効果をもつ場合もあれば,地位の差が効果をもつ場合もある。2)同様に,女性は男性より対人距離が小さいとは言えない。すなわち,被験者と相手の性の組み合わせによって性差の現れ方は異なる。3)対人距離の性差は,相互作用の状況,被験者が相手に接近する場合と接近される場合で,その現れ方を異にする。今後は,地位の要因を統制したときに性差が消失するのかどうかの検討,従来「性差」だと言われてきたものが「被験者の性」,「ターゲットの性」,「接近者の性」のいずれの要因に起因するのかの,より詳細な検討が必要である。
キーワード: 対人距離,個人空間,パーソナル・スペース,性差,従属仮説
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